なんでそんなに恥ずかしがるのかなァ。 別に普通だと思うんだけど。 でもそんな照れ屋な君も。 ううん。 そんな照れ屋な君だから。 余計に「欲しい」って言いたくなる。 『僕が勝ったら欲しいモノ』 「ちゃん、今日のお昼も美味しかったよー」 「おっ、ちゃん。いつもご苦労様。」 廊下ですれ違う隊士はを見掛けると必ず声をかける。 「そうですか?ありがとうございます」 「いいえ。皆さんもお仕事頑張って下さいね」 それには明るい笑顔でお礼を返す。 いつもの屯所の昼下がり。 「いよし!これで最後っと…」 袖をまくり直して、いくつも器を重ね流しへ運んでいく。 真撰組は人が多いからなかなかの重さだ。 と、その時。 「わわっ!」 一番上の皿がすべり落ち、床の上でパリーンと派手な音を立て・・・ ・・・・・ることはなかった。 「・・・・ふう。間一髪〜」 「・・・退・・・」 皿は床に落ちる前に、の恋人、山崎の手によりキャッチされていたのだ。 「って顔に似合わず意外とおおざっぱだよねー。もうちょっと小分けにして運べばいいのに。」 「う、うるさいなァー。早く終わらせたかったの!」 カチャカチャ皿の音を立てながら二人は廊下を歩く。 山崎の手の上には半分の量の器。 「早く?なんで?」 「……。」 なんで、って……アンタのせいだよアンタの! は、理由はあるが言うわけにもいかず、心の中で軽く悪態をつきつつも押し黙る。 山崎は食事の後いつも食器の後片付けを手伝いに来てくれる。 もちろんそれはとても嬉しいし、そういう気遣いをできる男の人はあまりいない。 退の、すごくいい所。 そういうトコがとても好き。 でも。 今は困るんだよ。 だって…… 「?何突っ立ってるの?早くそれ置いたら?」 台所の入り口でボーっとしていたに山崎は声をかける。 「へッ!?・・・・あ、うん。」 はガシャリと皿の山を流しにおく。 「んじゃあ俺は仕事に戻るから。」 「…分かった。ありがと。」 良かった。マジ良かった。 今日はアレを言われなかった。 ホッと胸を撫で下ろし、山積みの皿を洗おうとスポンジに手を伸ばす。 「あ、そうだ。それ終わったら俺の部屋に来てくれる?」 ・・・その瞬間に背後から声をかけられた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」 山崎に背を向けたまま、引きつった笑顔を浮かべる。 手はスポンジに洗剤をかけようとしている格好のまま固まっている。 「ん〜少し話しがある、から。かな?」 お茶を濁す感じで曖昧に返事を返す山崎。 「・・・・・・・・・・・・」 ・・・・・このヤロウ。絶対ェアレを言う気だよ。 アレが目的なんだろ。ええ?そうなんだろ? 言っておくがなァ、アタシは絶対に嫌だからな。 と、言えるものなら言いたい。 でも、それを口にしたら 「何だ分かってるんじゃん。うん。そうなんだよ。やってくれるよね?ね、?」 とか何とか言ってくるに決まってるし。 それなら、時間かせいで、その間に言い訳考えた方が絶対にいい。 うん、その方がいい。 決意を表すかのようにの手の中にあったスポンジはグシャリと握りつぶされる。 「じゃあ後でね。待ってるから。」 「え!?ちょっ・・・・!!私行くなんて言ってな・・・・」 が慌てて振り向いた時には、そこに山崎の姿はすでになかった。 握ったスポンジから水滴がポタポタたれる音だけが台所に響いていた。 「・・・・・・・何やってンだオメーら・・・・・」 山崎がに約束を取り付けて数十分後。 屯所内のとある一室に隊士達が集まっていた。 「しー!副長!」 「見つかっちゃうじゃありませんか!」 「お前ら一体何やってんだ。仕事はどうした。」 明らかにサボりの隊士達をギロリと見下ろす土方。 「いやいや土方さん、俺達よりも ”仕事はどうした” と言いたくなるようなことが起こってますぜ。隣で。」 「ああ゛!?つか、お前も見回りの時間のはずだろうが!そのアイスの棒をそのまま喉奥に突っ込んでやろうか!?」 「いやいや土方さん、俺よりも ”何突っ込もうとしてんだ” と言いたくなるようなことが起こってますぜ。隣で。」 「てンめ・・・!」 土方の方は見向きもせずに真面目な顔で壁に耳を当てる沖田。 「そうだぜ副長」 「これは見逃すわけにいかねェ大事件だ・・・!」 他の隊士達もすがりつく様に壁に耳を当てたり、中にはコップを手にしてる者までいる。 仕事に戻る気配ナシ。 その様子に土方が怒りを覚えないはずもなく、煙草を噛み締めながら刀に手をかける。 「よォーし、お前らの気持ちはよく分かった。そこに正座しろ、今すぐ・・・!!」 「あぁン!!ダメェ!」 ・・・・叩っ斬る。 土方がそう言おうとした瞬間に、隣の部屋から女の声が響いた。 一瞬静まり返る隊士一同。 「な・・・・ななな!?」 「おッ!!ついにきた!?」 顔を赤くし、言葉を詰まらせる土方に、 待ってましたとばかりに壁や襖にかぶりつく隊士。 「ちゃん・・・・嗚呼、何で山崎なんか選んだんだ・・・」 中には半泣きで中の様子を伺う奴もいる。 「…!?中にがいんのか!?」 「しッ、しィー!!副長!!静かに!」 「おッ、まだ聞こえますぜィ」 慌てる周りの隊士をよそに1人冷静な沖田。 「ちょ・・・退・・!やッ、お願いちょっと待って・・・」 「待ったはナシだよ。ホラ、いいから手をどけて」 「あッ!ダメ!ソコは・・・ダメだったら・・・!!」 「ホ〜ラ。もう観念しなさい。」 ・・・・・・何だ? 何なんだこの会話は? ここは屯所だぞ!?しかもまだ真ッ昼間だぞ!!! 下を向き固まっていた土方は、怒りで少しずつ震え始め・・・・・・・ 「お、願い・・・!一回だけ許して・・・!ねッ・・・?」 「だーめー」 ついにブチンとぶち切れた。 「テメーらァァァァ!!何やってンだこの真ッ昼間からァァァ!!!」 スパァァァン!!!と土方は鬼の如き表情で、力の限り襖を左右に押し開く。 そのせいで中を覗いていた他の隊士もギャ、とか、う、とか言いながらボトボトと倒れこむ。 そして中の2人は。 「「え?」」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 あたりを包む静寂。 乱暴に開けられた襖がガタリと外れる。 そう、部屋の中には淫らに絡み合う・・・・・・・・・・・・・ 「あの・・・・・どうかしたんですか副長・・・・・・?」 ・・・・・淫らに絡み合う・・・・・・・わけじゃなく。 座した山崎と、その向かいに床に両手を重ねてついて座る。 2人の間には並べられたカード。 その様子はまさしく。 「・・・・・・なんでェ、ただの七並べじゃねーかィ」 そう、有名なトランプ遊びの七並べだった。 「・・・・・・・」 真っ白な頭の中で今までの会話を反芻する土方。 『あッ!ダメ!ソコは・・・ダメだったら・・・!!』 ・・・ああ、ソコって・・・今が手をついてる位置か。 『お、願い・・・!一回だけ許して・・・!ねッ・・・?』 ・・・ああ、許してって・・・このターンを見逃せってことか。 「・・・・土方さん?」 頭をガクリと垂れ、襖に手をかけたままズルズルと座り込む土方。 「あの・・・・皆さんまでどうされたんです・・・・?」 ワケが分からないといった様子で心配そうに見上げる。 「あっ、あの・・・・・副長?どうしたんスか?」 ただならぬ雰囲気の土方に山崎は心配そうに声をかける。 「・・・・・・・・・・・やァ〜〜まァ〜〜ざァ〜〜きィィ〜〜〜・・・・」 返ってきたのは地の底から沸くような凶悪な声。 「えっ・・・・えっ!?な、何・・・!?俺・・・え?」 思い当たる節がなくとも、いつもの習性でついオロオロする山崎。 「山崎ィィィィィィィ!!!」 「ギャアぁぁぁぁぁ!!何で俺がァァァー!?」 「ちょ!2人共!?」 靴も履かず一目散に逃げる山崎と、刀をふりかぶり追いかける土方。 「いつもよく飽きませんねィ」 「あ、はは・・・・・・・」 アイスの最後の一口を口に入れながら、沖田はヒョイとトランプを一枚取り上げる。 「しかしさん、何だってこんな勝負してたんですかィ」 「え?」 「いや、さんがこんな遊びするなんて珍しいじゃねェですか」 指先でピンとトランプを弾き飛ばす沖田。 屯所でトランプといえば、大抵は隊士達がつまらない賭け事に使うものだ。 「あ〜・・・その・・・・」 「ん?」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・・あっ!!!そうだいけませんわもうこんな時間!買出しに行ってこなくちゃあ〜」 棒読みで言うか早いか、目に留まらぬ速さでトランプを片付け、部屋から逃げ出す。 「さん?おォーい・・・・」 廊下に顔だけ覗かせた時にはすでにそこにの姿はなくて、部屋には沖田と他の隊士だけが残された。 「・・・沖田隊長ォー結局何でトランプだったんでしょうね」 「ただの暇つぶしじゃねーの?ね、隊長?」 「何でもいい・・・・ちゃんの操が無事なら・・・・・・」 誰かのその発言に隊士達はウンウンとうなずく。 「そーさねィ・・・・・」 沖田はの去った方を一瞥してニヤリと笑う。 「俺も今度、勝負を挑んでみますかね」 なかなかやるじゃねーか山崎。 そう、意地っ張りの恥ずかしがり家には勝負をもちかけんのが一番でさァ。 「俺ァババ抜きがいいねェ 得意なんでさァ」 けどオメーのことだ。 この勝負も有効に活用できてるとは思えねェなァ・・・。 俺なら間違いなく。 「狙いは本体でさァ」 「?」 その言葉に隊士達は首をかしげていた。 次の日。 「やっぱりこういうのは有効に活用しないとダメなんだって」 ムスッとしたの隣で、少し得意気な顔をする山崎。 「何が有効活用よ!人が築き上げようとした堤防を壊そうとして!」 「だってそういうゲームじゃない。ジョーカー出された場所のカードは強制提出ってルールはその為だよ?」 「うるさい うるさァーい!」 「わッ!?ちょっと巾着振り回さないでよー」 ブンブンと振り回される巾着についた鈴がチリチリ鳴る。 次の日2人は江戸の町に繰り出していた。 「もうッ!ヤダって言ってるのに!ヤダって言ってるのに!」 「でも勝負は勝負だからね。負けたには拒否権ないよ?」 「ぐッ・・・」 この状況だとそのニッコリ笑顔がエグイんじゃァァァ! と心の中で毒づきながらもは渋々山崎の後をついて歩く。 「あーここだ ここ」 「・・・・・・・・」 「さッ、入ろう?」 「・・・・・・・・」 いかにも恨めしそうな顔で山崎を睨んだまま突っ立てる。 「大丈夫。お金は俺が全部払うから。」 「当たり前よッッ!!」 怒りながらズンズン中に入ってきた。 顔は赤いし、何か少し涙目? 恥ずかしがってんだなー可愛いなー。怒った顔も超可愛い。 そんな顔されるとあの、アレだよ。 こう・・・ギューっとね。それでそれで・・・・・・・・・・・・・・・アレ?ますます怒ってる? 「退・・・アンタ心の中で思ってるつもりみたいだけど、途中から全部口に出てるから! なーにが怒った顔も、よ!馬鹿にしてんの!!??」 「うわわ!?アレ?いつの間に!!??」 怒りながらの顔はますます赤くなっていく。 「あはは。ゴメンゴメン ついね。」 取り繕うように笑いながら山崎は財布取り出す。 「でもそんなに恥ずかしがるような事じゃないじゃん。普通だろ?皆やってんじゃん。」 「平気な人にこの気持ちは分かんないッ!」 「レンズ向けられたって別にAV撮るわけじゃグバァ!?」 無言のから蹴りを貰う山崎。 カシャン、カシャン 『好きな時にボタンを押してネッ!』 小銭を入れれば甲高い女の子の声がアナウンスする。 まさに山崎はこの瞬間を望んでいたのだ。 あの七並べはこの瞬間を獲得するために仕掛けたものだった。 「〜もうちょいこっち寄んないとさ・・・」 「わ、分かってるわよ!」 『にっこり笑ってー ハイ、チーズ!』 カシャ 「どーする?これでいい?撮りなおす?」 モニターに映ったショットを前かがみで覗き込む山崎。 「何でもいいわよ 早く終わらせて!」 「怒らないでよー」 「怒ってない」 じゃあそのプウっとふくれた頬は何でしょうね? ま、可愛いからいいけど。 でもなァ、せっかく勝負に勝ったのに怒り顔のプリクラだけで終わるのもなァ。 なにやらブツブツ言ってるを横目でチラリと見ながらボタンに手を伸ばす山崎。 「これで最後だから、いいショットにしようねー」 「・・・・何でもいいから早くして・・・・」 もう怒るのも疲れたっていうか早く帰りたい、と心底思う。 写真とか、ビデオとか撮られるのが小さい頃から嫌いなのだ。 退は何でこうも写真とかプリクラとか撮りたがるのが理解に苦しむ。 レンズを向けられるとなんかこう、居心地が悪い。観察されてるみたいでムズムズする。 『にっこり笑ってー ハイ、チーズ!』 「」 「何よ…んッ…!!??」 振り向きざまに、唇に触れる柔らかなもの。 「ちょ、さが・・・・ッ・・・・」 『出来上がるまでもう少し待っててネッ!』 狭い空間の中、アナウンスが空々しく響く。 「・・・ン・・や・・・」 差し込まれた舌の感触に身を捩って逃げようとするが、腰と背に回された腕のせいでそれも叶わない。 呼吸のため一瞬離れた顔を背けようとしても、顎を引かれ、すぐにまた口が塞がれる。 「・・・・・ッ・・・」 ピチャ、と響く水音には山崎の着物をギュっと掴む。 時折あやす様に山崎の手がの頭を撫でる。 ・・・チュ・・・ 小さな音でやっと解放される唇。 山崎は優しい眼差しで腕の中の恋人を見つめ・・・・ 「・・・・・・・・・グボハァ!!??」 「信っっっっじらんない!!!!」 思い切りの右ストレートを喰らった。 「何いきなりこんなトコで発情してんの!?つか、写真に映ったじゃない!どうすんのよ!」 「写真じゃなくてプリクラだよ。あ、ちなみにこういうのはキスプリってい・・・・」 「ンなこたァどーでもいいんだよォ!!」 退のバカ!アホォォォ! と大絶叫しながらは半泣きで走って逃げた。 「あーあー、行っちゃったよ・・・。いてて・・・」 ズキズキする左頬を押さえながら腰を上げる山崎。 でも、痛みに反して顔が自然とニヤける。 「やっばいなーコレ・・・・もうしばらく口きいて貰えないかも。どうしよう・・・・」 いやでも、むしろ嬉しすぎてどうしよう。 「説得すること数ヶ月、トランプ勝負と右ストレートの果てに、か・・・・・・」 チラリと足元の取り出し口を見れば、すでに出来上がったプリクラ。 それを嬉しそうに山崎は取り上げる。 「長かったなァ・・・いやホント」 1枚ピラリとはがして携帯にぺタリ。 一番レアなショットのそれを。 僕が勝ったら欲しいモノ それは小さな、小さな、愛の証。 *********************** 沖田君も何気にさん狙いですか・・・? せっかく勝ったのに、彼女本体じゃなくキスプリ狙い。策士になりきれない山崎(笑) |