どういう組織にも、必ず頭の足りない奴ってのはいるもので。
それが悪党の巣窟ならば尚更。

そういう奴がいるから仕事がやり易いというのもあるけれど。

所詮こんなことを考える奴らの覚悟なんてたかが知れてる。


そう、あの人たちに比べたら。

























『 夕闇スターティング 』


























情報をかき集めるために、動いて動いて。
時間はあっという間に経っていた。

江戸の町には人が多い。
朝・昼は当然のこと、夕闇迫る時刻でさえも。

「どうもアリガト。参考になったわ」
「いんや気にすんな。と、いうか。この状況なら自分のためでもあるしな?」
「・・・ま、確かに」

ある居酒屋の勝手口で、店主らしき男と若い女が話をしている。
女は少し苦笑いを浮かべた。

「物騒なことする連中の割りにゃ間抜けな奴もいんだなァ?」
「物騒なこと考える連中だからこそほころびが出るのよ。鍛え方、足りないわ」
「お前さんのお眼鏡にかなう程鍛えろってのは、ちと酷だがな?」

ねじり鉢巻を巻いて豪快に笑う男の後ろからは、いい匂いのする煙が外へ流れ霧散してゆく。

食欲のそそる、串焼きの煙だ。

店の中からは仕事帰りに飲みに立ち寄る人間の、少しやかましい位の笑い声が聞こえてくる。

「そうでもないわよ。何も腕前のことだけ言ってるわけじゃないし。・・・・現に目の前に、お眼鏡にかなう人もいるし?」
女性は身を屈めて、悪戯っぽくクスリと笑ってみせる。

「はっはっは!そいつァ光栄だなァ!やってる甲斐があるもんだ!」
「店長ォー、」
奥から聞こえた声に、今度は店主が苦笑いをした。

「・・・・っといけねェ、そろそろ戻らねーとな。最近の若い衆はやかましくてよォ」
「いいえ、こちらこそ急なお願いなのに聞いてもらって助かったわ。ごめんなさい、邪魔をして」
「いいってことよ。おっと、そうだ。ちょっと待ってな」

店主は一旦、明るい店内に戻ったがすぐにまた顔を見せた。

「ホレ、これ持ってきな。腹が減ってはなんとやらだ」
手に持っていたのは、串焼きの入った包み紙だ。

「えッ、いいの?うわァ、嬉しい!丁度お腹が空いてきてたの」
「おう。美味いと思ったら、また今度飲みにきてくれや」
「ええ、必ず。・・・・・・・じゃあ」

彼女がそこを立ち去ろうとした時、店主がふいに呼び止めた。

さんよ、頼んだぜ。・・・・江戸の平和」

その言葉に、彼女は驚いたように目を丸くして。
今度は、彼女が弾けるように笑う番だった。

「嫌だわ、私スーパーマンじゃないのよ?そんな大袈裟な・・・ッ・・ハハッ・・・ヤダ、おかし・・・!」
「クックック。まァいいじゃねーか」
「・・・フフ・・・でも、そうね。じゃあその内伝えておくわ、みんなに」
「みんな?」
「・・・・・・・・・・・・私の、新しい仲間。それじゃ」

にこ、と笑って彼女は夕闇へ姿を消した。


「・・・新しい仲間、ね」

店主は腕組みをして、満足そうに呟く。

「いいねェ、若けーってのはよォ・・・・・」
「店長ォ〜!ちょっと早く戻ってきて下さいよォー!」

しかし浸る間も無く、その背中にまた声が飛んできて。

「わァかってるよ、うるせェな!」

彼もまた、店の中に姿を消した。




















「遅っせェや土方さん」

日はとっぷり暮れて。

江戸の町並みがネオンの色に染まる頃。
通りに1台のパトカーが止まった。

「どうだ、それっぽいのいたか」
車の窓が下がり、中にいた咥え煙草の男が問う。

「いんや、サッパリでさァ」
「他の連中の所は」
「今のところ情報ナシ」

それを聞いて男は忌々しそうに舌打ちをすると外へ出て、苛立った様子でドアを閉めた。

「さっき上から電話があった。さっさとしろだとよ。自分達は手ェこまねいてるだけのクセしやがって」
「へェ・・・・そりゃまた、」

難儀なことですねィ、と茶髪の青年は気の無い様子で答える。

2人の着る黒い洋装は、真撰組の隊服。

副長の土方と、一番隊隊長の沖田だ。

「そういや近藤さんは?」
「・・・・」

クイ、と土方が親指で刺したパトカーの中を覗けば。

「・・・ガー・・・・フゴッ・・・・お、妙さ・・・・・」
助手席で騒音を立てながら眠る近藤の姿があった。


「・・・・・今日は俺達は休み無しじゃねーんですかィ?ヒデェや、それじゃ俺も・・・」
「待たんかクソガキ」
後部座席へ乗り込もうとする沖田の襟を掴む土方。

「何でェ土方さん。近藤さんだけヒイキするつもりですかィ」
「オメーは昼間グースカ寝てやがったろーが。昼間の分まで働け。これから忙しくなんだよ」

それを聞いて沖田は不満げな言葉をもらす。

「忙しくなんのが、今からならいいんですけどねェ。ターミナルがぶっ壊れた後でねーなら」
「・・・・・・」
「ターミナルはあのえいりあんの件でこりごりでさァ。愚民共も馬鹿官僚共もうるせーのなんのって」
「・・・・・だから今回は絶対に未然に事を防がなきゃなんねーんだ」

こりごりなのは土方とて同じだ。

星海坊主がやってきた時の一件。
結局ターミナルはグチャグチャになるわ、エイリアンのでかい死骸は残るわで散々だった。

「3日以内に全天人を母星に、なんて非現実的でィ。奴さんは最初からターミナルをやっちまいてーだけだろィ」

沖田はダルそうに頭の後ろで手を組み、パトカーにドスッともたれかかる。
その振動で中にいた近藤が、またフガッとおかしなイビキをかいた。

「違ェーよ」
ため息と共に紫煙を吐き出す土方。

「奴らの狙いはターミナルもそうだろうが、他にある」

その厳しい目つきは、今この時も通りを行き交う人間に向けられている。
話しながらも不審人物がいないか、チェックは怠らない。

「・・・へえ?何ですかィ」
「狙いは・・・・・・俺達だろうな」
「俺ァ男を相手にするシュミはありやせん」
すかさず言う沖田。

「何の話だボケェェェ!」
流石に通りから目を外して突っ込む土方。

「そうじゃなくて!最初からターミナルの爆破と、責任問題で真撰組が解体するのが狙いだっつってんの!」
「んなら最初からそう言ってくだせェ。カッコつけて回りくどい言い方すっから」
「・・・・」

バシ!

土方は無言で素早く抜刀したが、あえなく沖田に白刃取りにされる。

「何なのコイツ!マジムカツクんだけど!ぶっとばしてーんだけどォ!」
「へッ。できるモンならやってみろィ土方コノヤロー」

白刃取りの体勢のままでにらみ合う2人。

だがそれは長く続かなかった。

パトカーの中から無線の音が鳴り始めたからだ。

「・・・・・」
「・・・・・」
2人して同じようにそちらを見る。


ピー、ピー、ピー。

早く出ろと言わんばかりに鳴り続ける無線。


ピー、ピー、ピー
「・・・・・・・」
「ほら、呼んでますぜ」

ピー、ピー、ピー
「・・・・・・」
「綺麗な小鳥さんじゃねーすかィ?」

ピー、ピー、ピー
「待たすなんて無粋で・・・」
「分かってるよ、るせーな!」

金属音と共に刀を納めると、引きちぎらんばかりの乱暴さで無線を取る土方。

「んだコラ、こっちは今忙しいんだよ!」
「やァっと出た〜。しかもあからさまに不機嫌〜」
「・・・・・・」

聞こえてきたのは相も変らず呑気な声。
横から盗み聴こうと顔を寄せる沖田を土方は睨みつける。

「・・・一体何の用だ、
「何でそんなにイラついてるんです?頭上の鴉が落し物でもして行きましたか?」
「・・・切るぞ」
無線を戻そうとする土方。

「あああ!ちょ、待って待って!すいませんでした!つっか短気だなァ土方さんは〜!」
慌てて取り繕う

「・・・・用件は!!」
かまわず問いただす土方。

「はぁ。・・・・・・あのですね・・・・・・」


それから、数分。

彼女の話を聞き終えて。


『おいどーだ、あったか!?』
「・・・はァ、はァ。副長ォ耳元で怒鳴るのやめてくださいよ〜」
『どうなんだって聞いてンだ!』

街中には全速力で走る隊士の姿があった。

「今探してま・・・・あッ!!」
『あったか!?』
「ありました!オレンジの紙袋ですよね!?」
『残り時間は!?』
「ま、待ってください?・・・・・・い、今開けます・・・」

そォ〜っと。
その隊士は及び腰で、その甘味所の軒下にある紙袋に近づく。

彼女の話によればその袋の中には。








「爆弾だァ!?」
「そうです。今言った場所にあるのは間違いありません」
「・・・・・・・・その話、信じるだけの証拠は?」

きびしい目つきで問う土方。

「・・・・・残念ながら、私の言葉を信用してもらう他は」
「・・・・・・」

さて、どうするか。

土方は口をつぐんだ。

この女の言うことをどこまで信じていいものか。

急にこういう状況になったのだ。
それは相手も同じで、証拠などあげられるわけがない。
それは分かっているけれど。

「隊士を向かわせるなんざ 「余裕でOKですぜ」」
いきなり割って入った声にバッと顔を向ける土方。

「テッメ・・!何勝手に・・・」
「その甘味所とデパートを見にいけばいいんですねィ?」
土方から無線をもぎ取って話をすすめる沖田。

「ええ。時限爆弾だけど、まだ時間はあるみたい。人気の無いところに持っていって処理して欲しいの」
「アンタはどうすんでィ?」
笑顔で聞く沖田だが、その顔はいつものような嫌味なものではない。

「・・・私は・・・」












「・・・・・・・さん、本丸に行くそうですぜィ?俺達より早ェーかもなァ」

無線の会話の後、隊士は3つに分かれた。

がタレこんできた爆弾処理2箇所に小隊2班。
残りは本丸襲撃。

土方と沖田は勿論本丸行きだ。

「・・・・・」

土方はむっつりと黙り込んだまま、光の糸をひいて飛び去ってゆく外の景色を眺めている。

「アンタ、随分さんを疑ってかかってるようですが、現に1つ爆弾が見つかってんだから」
「わーってるよ」

つい先程、爆弾が1つ見つかっている。

彼女が言った通りの場所で。



ぶっちゃけた話、あーだこーだと考えるのが面倒になってきた土方。

考えたところで、このままいっても犯人が捕まりそうにないからだ。
話は本当のようだし、それならそれに乗っかってしまった方がずっと早い。


(もう、どーにでもなりやがれ)


蛍光色のネオンを睨みながら土方は腹をくくった。






タイムリミットまで残りわずか。







時刻はもうすぐ真夜中になろうとしていた。



























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ま、まだ続きます・・・!(長!)