神社で謎の女と出会ってから数日経った。あの事がどうにも気にかかる。

こちらは向こうを知らないのに、向こうはこちらを知っているという状況はどうにも居心地が良くなかった。



























『 般若の面は微笑んだ : 後 』



























「おい!!あの書類は出来上がったか!?」

「そっ、それが肝心の情報がまだ届かなくて・・・」

「チッ、またかよ」


幕府側で動く真選組。
色々な情報も幕府の情報網を使って手に入れることも多々ある。
しかし、この所それがどうにも上手く機能していない様で、仕事が滞ることもしばしばあった。


「ったくよォ。上の連中が内輪もめ起こすのは構わねェが、その度にこっちまでとばっちり食らうのは納得いかねェ・・・」

「もう机の上は未処理の書類だらけですもんね」

「そのくせ期限まで終わらなければ即、催促状が来やがる・・・どうしようもねェな・・・」

イライラした様子でくわえた煙草に火をつける。




ギャッッ!?




その時ふいに門の方から隊士の叫び声が響く。遠くからこちらへ向かってくる隊士の足音。



ドタドタドタ・・・スパァーン!!



「副長ォォ!!副長は鬼ですーー!!!」

「・・・・・何か言ったか?」


チャキッと部屋に入ってきた山崎に切っ先が向く。


「え!?あわっ!!あ・いや、違っ!間違えました!!あ・あの、鬼が副長をご指名です!!」

「あ゛あ゛!!??」

「ひえぇぇ!!す・スンマセ・・!!で・でも嘘じゃないです!!鬼が玄関に・・・副長と話がって・・・」

「嘘つけェ!そんなことあるわけあるか!!」

「土方さん日本語変ですぜ」

「うるせェよ!!・・・つーか、お前いつから居たんだよ!!」

「早く行ってくだせェ。お客待たせちゃ悪いでしょう」

「俺の質問はスルーか!!」




ドスドスドスと怒りの足音をたてて土方は玄関へ向かう。




(ああ畜生。何なんだ!どうしてこの頃厄介ごとばかり起こるんだ。呪いか!?総悟のヤローが呪いをかけたのか!?)

有り得ないとも言い切れないことを考えながら玄関へ向かう。
すると玄関には黒い人だかり。
どいつもこいつも柱やフスマの影からこっそり覗いている。その中には山崎の姿もあった。

(コイツ・・・どうやって先回りしたんだ)

気を取り直し、視線の先に目をやると。


そこには見覚えのある・・・


「あらやっほー。こんにちは、土方さん」


般若の面。


「・・・」

「あら、なんですか?露骨に嫌そうな顔しちゃって」

「・・・テメェ、よっぽど斬られてェらしいな」

「まぁー失礼な。土方さんが『俺と話をしろ』としつこいからワザワザこうして約束を守りにきたというのに」

「あ゛あ゛!?フザケんな!俺は『取り調べ』を受けろっつったん・・・」

「(ヒソヒソ)ええっ!?副長あんな鬼に声かけたのか!?」
「(ヒソヒソ)つーか、あの鬼、声怖!!」
「(ヒソヒソ)さすが鬼の副長・・・ナンパの相手も鬼なんだ・・・」


ギロリ。
後ろでヒソヒソ話をする隊士を殺さん形相で睨む。




「……山崎ィィィィ!!!」

「ギャアアア!!何で俺だけー!?」

「あーコラコラ、土方さん?そんなにボコったら可哀想ですよ」

「うっせェよ!!お前も、その格好は止めろっつったろーが!!」

「『止めろ』とは言ってなかったですよ。あの時は・・・・」

「細かいこたァいいんだよ!!」


バッ、と勢いまかせに土方は女の面をはぎ取る。




ザワッ




面を取った女を見て、隊士達はどよめいた後硬直してしまった。

























「どどっ、どうぞ粗茶ですが・・・」

「あ、どうもありがとうございます」

結局、屯所の中で最も普段から綺麗にされている部屋、客室に女は通された。

隊士達の視線は完全にその女に釘付けだったが、その中で若干一名、苦虫を噛み潰したような顔をしている者がいる。


「・・・何でこいつらこんなに行儀がよくなってんだ・・・」


隊士達の様子を見てボソリとつぶやく土方に


「そりゃあ、あれだけの別嬪さんですからねィ」


沖田が即、つっこむ。


「・・・はぁ!?別嬪だぁ?」


沖田の言葉に土方は改めて女をマジマジと見る。


「・・・」


考えればまともな状態で顔を見るのはこれが初めて。
この前は見えたと思ったらすぐに逃げられたし、第一ずっと怒鳴ってたせいで姿形を観察する余裕なんてなかった。

「・・・・・・・・・・・」

1つにまとめられた長いこげ茶の髪に、真っ白な肌。
大人の女性ではあるが、明るい表情が少し幼さを添えているような。

確かに言われれば。
別嬪の域に入る、かもしれない。

「・・・・・・・性格がやかましい。」

けれどそれを正直に言うのは何ともシャクだったので、ブスッとそう答える土方。

「『やかましい』と『明るい』は違いますぜ?それに、見た目は綺麗で中身は楽しい。このギャップが良いんでさァ」


・・・・『楽しい』?

なる程そうか。
この人をおちょくった態度は沖田のそれと酷似している。
いわゆる『沖田属性』なのだ。


「・・・はぁぁ〜・・・」

額に手をやり、思わず溜め息をつく土方。

分かってる。こういうタイプに関わるとロクなことがない。
それはどこぞの居眠り野朗で身に染みている。
さっさといくつか適当な質問をして帰すのが得策だ。


「……オイ、何か大丈夫そうだから名前と住所を言ってもう帰れ」

「もう帰れって、それはないですよー。そっちがあれだけ騒ぐからこうしてわざわざ来たというのに」

「問答無用」

「・・・・・・・・・白昼堂々、人を押し倒しておいて」
サラリと言い放つ彼女。


「「「ええぇえぇえ!!??」」」

「そんな!!副長ォォ!何てことをォォォォ!!」
そしてそれに、口々にわめきだす隊士たち。

「違ェェェ!!!おいお前!!誤解を招くようなこと言うとブッた斬るぞ!!」

「いいえ。その人の言ってることは本当ですぜ。俺が証言しやす」

「ね。私、ウソなんて言ってないよね」

「「ねー」」

「ハモんじゃねェェェ!!何お前らそんな仲良しになってんの!?」



ああ、最悪だ。もう意気投合してやがる。まるで総悟が2人に増えたみてェだ。



「・・・もういい!!お前何も言わなくていいからさっさと帰れ!!」

「そういうわけにはいきません」

「何でだよ!!もうこっちが取り調べはいらねェってんだからいいんだよ!!」

「いや、取調べというか。別に取り調べでなくてもいいんですよ」

土方が怪訝な顔で見下ろすと、彼女と視線が合わさった。



「・・・・・・・・・私は、土方さんの顔をもう一度見に来ただけですから」


口の端を少しあげるその笑顔は、どこか含みのあるもので。
彼女は言葉を続けた。


「私、土方さんの事とても気に入ったんです。 ・・・・俗に言う・・・ホの字?」
女は口に手をあて、悪戯っぽく笑う。


「・・・・・ッ・・・!?」

あまりに、唐突で、そして強烈な言葉に土方は目を丸くして固まる。






「なっ」

「何だってェェェェグフッ!?



隊士達が叫ぼうとした瞬間、ふすまがバターンと倒れてきた。
その音に、ビクリと我に返る土方。


「・・・・・・・近藤さん、いつからそこにいたんですかィ」
いささか呆れた顔で問う沖田。

「・・・・・さ、最初から・・・ゲホッ!!いや、入るタイミング逃してなァ…。それよりも・・・・・お嬢さん今何と!?」

「ああ、真撰組局長の近藤さんですね?初めまして。お邪魔しております」


ペコリと女は頭を下げる。


「え?ああ、いやこちらこそ・・・・ってあれ?俺のこともう紹介してたの、お前ら?」


それを聞いてハッと思い出す。
そういえばコイツは俺の名前を知っていた。その理由をまだ聞いていない。


「・・・・おい、お前そういや俺の名前も知ってたな。何で俺らのことを知ってんだ」


その言葉を聞いて女は何やら得意そうな顔をした。



「幕府や警察の要人の名前くらいは知ってますよ?基本だし」

「基本・・・・・・・?」

「そう、仕事柄いつ鉢合わせするか分からないから」

「・・・仕事って・・・・お前何モンだ・・・?」


そう問うと、女は懐から取り出した包みを机の上で開いた。


ゴトッ。


少し重そうな音を立てて置かれたそれは、忍と呼ばれる者たちがよく使う飛び道具     

女は顔を上げ、真正面から土方の目を見据えて、口を開いた。


「私、伊勢くの一軍の総長を務めておりました、と申します」


そう言うと、女   は改まって頭を下げ、

土方と隊士達に向かって再び微笑む。



「以後、お見知りおきを…v」





































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名前、最後の最後に2回だけ・・・す、すみません…!

伊勢くの一軍は管理人の勝手な創造物です。
忍で有名なのは伊賀・甲賀ですが、これらを使うと何か史実のこととか
色々気にしないといけなさそうだったので、調べるの面倒になって適当に作りました。