目が覚めた時は頭が重たくて、自分の居る場所が何処なのか、
なぜ眠っていたのかも分からなかった。

眠り続けることなく、こうして目覚めたことは

私にとって幸福なことだったのか、それとも不幸なことだったのか、分からない。


・・・・・今は、まだ。
















『 夢幻の城 2   ―行き着く先は― 』

















寝たままで衣ずれの音をたてて頭を横に向けた。
何も見えない程の闇ではないが、部屋の中は暗く、ものの判別がほとんどつかない。

(私、何で…)

おかしいな。
夕飯や寝床についた時の記憶がない。夕べどうしたんだっけ…?

思い出そうとするけれど、脳が鉛に変わったかのように重たくて働いてくれない。
無理に思い起こし、昨夜のことをひとつひとつ辿っていくけれど、眠たくて仕方がなくて。


重い瞼を再び閉じようとした時、一人きりだと思っていたその空間にいきなり人の声が聞こえた。

「気がついたか」
「…!!」


その瞬間、薄闇の中にあっても私はは目を大きく見開いた。

(そうだ、吸血鬼…!)

何があったのか一瞬のうちに思い出し、咄嗟に身を起こそうとしたが急に襲った眩暈でグラリと視界が傾く。

「・・・っと。まだ動かない方がいいぞ。一晩で急に血の量が戻るわきゃねーからな」

倒れこんだ体を支えられ再び寝床に横たえられれば、昨夜と同じ声が頭上から降ってきた。

「家・・・か、えして・・・」

一晩眠り時間が経っていたからか、それとも話かけてきた声が昨日よりも落ち着いていたからだろうか。
心を凍らせるような恐怖は無く、文句の1つも叫びたかったが、血の足りない体がそれを許してくれない。
全身が重くて仕方がなかった。

「そう言われて帰す位なら連れて来ないさ。お前さんにはここに居てもらわなきゃなァ」
「・・・居て、ただ喰い殺されるのを待てっていうの・・・!?」

力の差というものはここまで理不尽な状況を作り出すものなのだろうか?
悲しさと悔しさで胸の奥がカッとなる。
このまま殺されるくらいならばいっそ今蹴りの一つでもくれてやりたいのに、この魔物に昨夜血を喰われすぎてそれも叶わない。

「フン・・・」
「・・・・・ッ・・!?」

不意にわき腹を触られ、思わず体が硬直する。

「待ってもらうかどうかは今決める」
「な、ん・・・ヤ、何するの・・・・!」

本当は、聞かなくても分かる。

胸元がヒヤリとしたのは空気に晒されたからだろう。
けれど問わずにはいられなかった。
視界をほとんど封じられた薄闇に不安がどんどん募ってゆく。

「・・・何って、確認だよ。昨夜のはもしかしたら唯の偶然かもしれないしな」

確認?偶然?
何のことなのだろう。
その吸血鬼はそれ以上今話す気がないようで、私はただ目頭が熱くなるのを感じていた。

「ヤ、ダ・・・止めっ・・・!」

分けもわからぬまま進む行為に、折角おさまっていた恐怖が再び沸き起こってくる。

ドレスの中に侵入してきた手に太ももを焦らすように撫でられかと思えば、首筋に柔らかなものが触れた。

「じっとしていろ、すぐに済む・・・・」

かかる吐息と低く囁かれた声に、それが唇なのだとやっと分かる。

「つッ・・・!」

チクンとした痛みと共に、ヌルリとしたものが首を這う。
昨夜受けたものと全く同じ感覚に、自分が何をされたのかハッキリと分かった。

けれど。


(な、に・・・・?)


違う。


同じだと思ったのは一瞬だけで。

(噛み付いて…ない・・・?)

てっきりまた血を吸われるのだと思っていたから、牙の感触が全く無いことを不思議に思った。

「・・・・・やたら叫ばないのは結構だが、平常心に戻られるのも困るんだよなァ?」
「・・・アッ・・!?」

浮上した意識が体に触れる手により再び引き戻される。
わけも分からぬまま体を這う熱に翻弄され、身を震わせてしまう。

「そうそう、そうやって心地良くなってて貰わねーと」

自分がしていることなのにまるで他人事のように言いながら、続けられる行為。
ポタ、と枕に水滴の落ちる音が耳元で聞こえて、私は知らず知らずに自分が泣いていたことにやっと気付いた。


「・・・・・やっぱ、思った通りな」

ひとしきり首筋から伝う血を舐めとると、吸血鬼はそう呟く。

頭が、再び重くなる。

無理に快感を与えられ、不自然に熱くなった血液が体を廻って。



「好きなだけ休んで、落ち着いたら外に出てこい」




頭がグラグラしているせいで遠くに聞こえるその言葉と共に、フワ、と布団をかけられる。

左の方からバタンとドアが閉まる音がして、あぁ向こうに扉があるんだとボンヤリ思った。















それから。

どのくらいの時間が経ったのだろうか。

「・・・・」

ゆっくりと体を起こす。
たっぷりと取った休息で、体も頭もスッキリしていた。

ただ、

吸血鬼にさらわれた。

その事実だけが、唯一心を曇らせているところだった。


「落ち着いたら、外に出てこい」


あの吸血鬼はそう言った。
意識が落ちる寸前に聞いた戸の音から、位置を思いだす。

「・・・・開くのかしら・・・?」

取っ手は金属なのかヒヤリとしている。
少し力をこめると、ギ・・とやや不気味な音をたてて、1センチほど戸が開いた。
今まで暗闇だった部屋に白い光の線がさす。
は目を細め、恐る恐る戸を開け、外へ出た。



「うそ・・・・」



思わず出た言葉。

大きな、広い廊下。
その廊下に連なる大きな石柱。

さらわれた行き先としてはあまりに豪華。

「多分、お城か聖堂・・・・?」

光の見える方向に足を進める。
コツンコツンと乾いた足音が広い天井へやたらと響く。

光がだんだん大きくなり、真っ白に弾けた先は。


「・・・・もう動けるみたいだな」


その先は、みずみずしい花や木々に囲まれたバルコニー。

その淵に腰掛けて。


「お前、名前は」


そこにいたのは、私をさらったあの魔物だった。











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ベタな設定すいません。でもこのシリーズはベタを貫こうかと・・・・