日もすっかり暮れた宵の頃。
街から少し離れた所に攘夷党の隠れ家がある。
普通『隠れ家』と聞くと少し寂れた古屋敷をイメージしがちだが、
攘夷党のそれは『荒れ果てた屋敷だとかえって怪しまれる』という理由から外観は普通程度には整えられている。
その屋敷に夜に入っていく男が一人。




「あ、党首。おかえりなさい。」

「あぁ。」

「先程、さんがいらっしゃったのでお部屋にお通ししました。」

「・・・が?」

























『香』




























普段は幕府から追われる身ということもあり、屋敷への出入りは色々と制限があるが、 桂の恋人であるは他の党員にも顔が知られているため屋敷へは顔パスで入ることが出来る。

桂も普段は忙しい身の上ということもあり、と会う回数はあまり多くはないし、
またも邪魔になるのが嫌なのかあまり会いたいとは口に出さない。

たが時折こうして桂を尋ねて屋敷へ来ることがある。




「すまない。待たせたな。」

「・・・あ。お帰りなさい桂さん。」



スラリと襖を開けて部屋に入ると、和紙の上に乗せられたアラレを食べるの姿があった。



「どうしたんだ。それ。」

「党員の方が、桂さんは少し遅くなるからそれまでどうぞ、って持って来てくださったの。」

「あぁ。すまなかった。君が来ると分かっていたらもう少し早くに切り上げたんだが・・・。」

「ご、ごめんない。・・・やっぱり急だったかしら。」




慌てる様子のに、隣に座りながら微笑みかける。




「・・・いや。もし今日君が来なかったらこちらから連絡をとっていたよ。・・・丁度会いたいと思っていた。」

「桂さん・・・」




桂の言葉にホッとしたのか、もまた微笑む。




「ん?もう食べないのか?」

「アラレより、桂さんの方が好きです。」




器をひっくり返さぬよう丁寧に横にどけて、桂の胸に頬を寄せる。




「・・・子供の頃、甘えたがりだと母親に言われなかったか?」

「ふふ・・・言われたかもしれません。」



桂はそのままを抱き締める。




「・・・あ。」

ふいにが声をあげる。

「どうした?」

「・・・桂さん、いい匂い・・・お香ですか?」

「ん?あぁ、これか。ほら、ここ数日ずっと雨だったろう。部屋の中の空気があまり良くなかったので香を焚いてたんだ。 多分それが着物についたんだろう。・・・気になるか?」

「ううん。桂さんにぴったり・・・香りがほんの少しだけな所も。」



顔を寄せた着物から微かな香の匂い。



「・・・?」

「品が良い感じがします。桂さん、そこらへんの女の人より品がいいですよね。」

「・・・そんなこともないだろう。」

「そんなことありますよ?」




(桂さんって照れるとすぐ顔に出る…可愛いなァ)




そんなことを思いながらは久しぶりの桂のぬくもりを感じる。




「・・・・・そういえば、咲いたんですね。」

「うん?」

「ほら、あの花・・・」




桂から身を放し、縁側に座ると庭先に植えてあるそれを指差す。




「前に来たときはまだ蕾だったから、咲くの楽しみにしていたんです。」

「好きなのか?」

「特別に、というわけじゃないですけど・・・何だか気になって。」

「・・・。」

「この花が咲く頃にまた桂さんに会えたらいいなぁ、って。」



花を見つめたままポツリポツリと呟く様に話す。




「その花も」

「え?」

「その花も良い匂いがするな。」

「そうですね。」


は嬉しそうに花に視線を戻す

が、ふと髪をサラリと内側から持ち上げられる様な感覚がして、少し驚いて後ろを振り替える。



「か、桂さん・・・?」

「・・・今度・・・」

「え?」

「今度、君に似合う香を調じてあげようか。」



手触りのいい髪に愛おしそうに口付けながら問い掛ける。




「前から少し思っていたんだ。」

「お香・・・桂さんが私に?」


口付けられた髪からも、まるで桂の体温が伝わるようで妙に気恥ずかしい。


「いらないか?」

「ううん。ほ、欲しい・・・・・・でも本当にいいんですか?」

「ああ。」




桂は優しく優しく微笑んで
そっと唇を重ね合わせる。




「あ、あの。桂さん・・・」

「うん?」

「あ、の・・・さっき部屋で焚いてたやつも・・・少し貰っていいですか?」

「何だ。あれが気にいったのか?」

「あ、いや、何ていうか・・・その・・・」



だって、あの香りがすると、まるで桂さんに抱き締めて貰えてるみたいで・・・

なんて、もちろん恥ずかしくて言えるわけがない。



顔を赤くして俯いてしまったを見て、桂はまたクスリと微笑する。





「・・・いいよ。あれも一緒にあげよう。」

「ほ、ホントですか?ありがとうございます!!」

「その代わり、俺と会う時はあげた香を着物に焚きしめてくること。約束だぞ?」

「は、はい・・・!」









いい香り  ふわり ふわり。





そうだな、君にあげるなら




例えば白い清楚な花のようで





心がなごむ様な香りがいい。









「とても言えそうにはないがな・・・・・・」







まさか、庭に咲いてるその花が


君によく似ているなんて。


似ているから、一目みて気に入ったなんて。


だから庭に植えたなんて。







「・・・・・・とても言えそうにない。」

「え?」

「・・・・いや、何でも。」








自分の思いに苦笑いしながら
もう一度ぎゅっとを抱きしめた。

















































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初桂夢です。な、なんだこの微妙なできは…。
ただ、桂さんって近づいたらいい香りがしそうだな〜って思ったんです。